■土壌汚染
土壌汚染対策法が平成15年2月15日に施行され、「土壌汚染」という言葉が世の中に出まわるようになりました。そもそも「土壌汚染」という用語は、公害対策基本法に規定されている典型7公害のひとつです。その発端は、神通川流域で発生した「イタイイタイ病」が原因となった健康被害で、これに対応する法律が昭和45(1970)年に制定された「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」です。
この法律は、「農用地」に「有害物質」を含んだ土が運ばれ、そこに生育する米に有害物質が蓄積され、米の摂取による人的健康被害が発生し原因として田んぼの土壌が対象となった法律です。
一方、土壌汚染対策法は、市街地における汚染が対象となっており、この法律でいう汚染とは、有害物質使用事業場で有害物質が地下に浸透することにより、人が「直接摂取」したり「地下水を経由して摂取」したりすることによって発生する健康被害を指しています。しかし、有害物質によっては表層の土壌だけでなく深部の地層や岩石にまで汚染がおよぶことがありますが、法律用語としては従来どおり「土壌汚染」の延長として使用されています。
・土壌とは
土壌という語はいくつかの意味に用いられています。地質学的な見方をすれば、土壌は岩石風化物に多少の有機物が混入したもので、岩石のサイクルにおける固結岩(堆積岩)の材料となるもので、土壌の元となる母材に生物・地形・気候が作用し、いろいろと長い時間かけてできた自然のもので、地球の一番表層のやわらかい層のことをいいます。土壌の母材としては、岩石、植物の死がいなどその場でできたもの、火山灰など遠くから風や水によって運ばれたまったものなどがあります。農林業では、土壌は植物(作物)の根圏となすもので、養分や水分の貯蔵庫であり、供給源になっています。一方、土木分野においては、地表の岩石風化砕屑物で建築物の材料や土台になるものですべて土壌であり、この場合は広く「地盤」とよばれています。
・地質汚染とは
重金属による汚染は土壌や浅い地層に吸着されて大きく移動することはあまりありませんが、揮発性有機化合物はベンゼンを除き、水より重く、水に溶けにくく流れやすい性質を持った液体で、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなど地下水汚染の代表的な物質となっています。このような物質が地下浸透すれば、土壌層をぬけて地下の深い地層に浸透し、地層や地下水を汚染し、不飽和帯では揮発して地下の空気を汚染するなど、地下で汚染が広がります。さらに、地下水は湧水となって河川に流出し公共水域の汚染、地表面から大気中に放出されると大気汚染となります(図1)。

以上のように、揮発性有機化合物は汚染現象を伴いながら様々にその形を変えて地質環境中を循環しています。
地層汚染(土壌汚染も含まれる)は、「特定有害物質」が土壌や地層に付着する現象でありますが、時には汚染された地下水や地下空気が土壌や地層中を通過することによっても発生します。
地下水汚染は、「特定有害物質」が地下浸透したり、ゴミとして埋められたりして地層中に貯留され、それが地層の間隙を通過して地下水中に溶出して汚染する現象です。そのほか、「特定有害物質」を直接井戸中に投棄、工場廃水を公共水域に排水することによって起こる現象もあります。
地下空気汚染は、地層中あるいは汚染地下水中の「特定有害物質−この場合は揮発性有機化合物−」から揮発し、通気帯 (Vadose Zone) にある地層の間隙や空洞にある空気を汚染する現象をいいます(鈴木,1989)。
このように地質環境を物理的、化学的、生物的に人間側に不利に変化させる現象が地層汚染(Contaminated Sediments−土壌汚染も含まれる−)、地下水汚染(Groundwater Pollution )および地下空気汚染(Ground Air Pollution)であり、この3つの汚染を総称して地質汚染と呼んでいます(楡井,1989)。
したがって、地質汚染を解明するにあたっては、科学的な視点で汚染現象をとらえることが重要です。個々の汚染物質の性質を熟知することはもちろんのこと、土壌層をはじめとした地層など汚染される側の性状も確認する必要があります。
